外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「そういうことがわかっていて、進んで結婚しようとは思えないですね。例えそういう生活でもいいと言われても、相手に不満が募るのは確実です」
「一緒にいられないのが嫌だとか言われたり?」
「ええ、負担ですね」
きっぱりと〝負担〟だと出てきた様子から、大河内さんの結婚に対する拒否度がビンビン伝わってくる。
話し終えた大河内さんが手元の食事を再開するのを目に、私も止まってしまっていたフォークを口へと運ぶ。
グリルされたホタテは香ばしく、噛むと中はぷりぷりで食べ応えが抜群。バルサミコソースが効いている。
「自分には独り身が性に合ってると思っているので、このまま気ままに生きていこうと思ってますけど、周囲はなかなか納得してくれないですね」
「わかります! 私も全く同じです。気ままに生きていきたい」
思わぬ場所とタイミングでこんな話になり、なんだか嬉しい気持ちになっていた。
グラスを手に取り、大河内さんに向かって掲げる。
大河内さんは私の仕草にやりたいことを察してくれたようで、微笑を浮かべて同じようにグラスを手に取った。
「これからもお互いに、気ままに生きていけますように」
私がそう言うと大河内さんは「そうですね」と言い、ふたりのグラスがカチンといい音を立てて重なり合った。