外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
その後、肉料理、デザートとコース料理を堪能して、レストランを後にしたのは午後八時を少し回った頃だった。
チェックの声をかけた大河内さんはスマートに支払いを済ませてしまい、慌ててお財布を取り出した私に支払いを断った。
自分が同行してほしいと頼んだのだから当たり前だと言い、「ご迷惑でしたか?」と丁寧に言われてしまうと大人しく「ごちそうさまでした」と頭を下げるしかなかった。
滞在中のホテルまで送ってくれるという大河内さんとタクシーに乗り込み、運転手にホテル名を告げる。
「私がおすすめのお店を伺ったのが、こんな、レストランでご馳走になってしまうという展開になってしまい……なんか、すみませんでした」
「いえ。お気になさらず。こちらこそプロから興味深い話も聞けましたし、有意義な時間を過ごさせていただきました」
「そんな、全然! 私なんかの話でよければいくらでも話しますし」
後部シートで並んで掛ける大河内さんは、私にちらりと視線を寄越してクスッと笑ってみせる。
そして「確かに……」と振り返るように視線を進行方向に泳がせた。