外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
大河内さんの迎えなのか確認するより先に、後部座席のドアが開いて綺麗な黒髪
の頭が覗く。
私の姿に気づき降車してきた大河内さんは、顔を合わせると「こんばんは」と穏やかに挨拶を口にした。
「こんばんは。すみません、お待たせしました」
「いえ。着いたばかりです。それに、約束の時間より前です」
相変わらず丁寧な話し方だと感心しているうち、目の前に近づいた大河内さんに「どうぞ」とタクシーに乗車することを促される。
この間と同じように後部座席にふたりで並んで乗り込むと、タクシーは静かに発車した。
「素敵な装いで来ていただき、ありがとうございます」
「いえ! こんなで大丈夫でしたか?」
「すごくいいと思います」
良かった、とホッと胸を撫でおろす。
こんな予定は元々なかったけれど、念のためにスマートカジュアル程度の用意はしておくものだなとしみじみ思っていた。
大河内さんは今日もスーツの姿。でも、今日はネクタイを締めベストを身につけている。