外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「では、乾杯」
「乾杯」
軽く重ねたグラスからは、上品な音が小さく鳴る。
口元まで持っていったグラスからは、フルーティーないい香りがふわりと漂った。
「美味しい。飲みやすいですね」
香りの通り、芳醇で爽やかな果実の味わいが口いっぱいに広がる。
ついどんどん進んでしまわないように気をつけようと思いながらも、前菜プレートが運ばれてきてすぐの頃にはグラスを空けてしまっていた。
「なんか、テーブルの上の料理も幻想的に見えますね」
海の揺らめきがガラスを通して反射し、レストラン内は青く海底にいるような気分にさせられる。
テーブルの上の白いプレートは、水色に目に映っていた。
「確かに。暗くなってきてライトアップされると、昼間と違った雰囲気になりますね」
大河内さんから何気なく出てきた言葉に、〝ん?〟と顔には出さないものの反応してしまう。
とういうことは、ここには前にも来たことがあるっていうことかな?
こんな素敵なところに、誰とランチに来たんだろ……?
誰って、間違いなく女性だよね。大河内さん素敵な方だし、いくらでも一緒に行きたい女性がいるよね。
余計なお世話なことを想像している私に、大河内さんが食事の手を止め視線を寄越す。
彼のプライベートを探ろうとしていた疚しい思考がバレてしまったのかと、一瞬どきりと心臓が驚いた。