外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


「私に……?」

「はい。もしよろしければですが」


 大河内さんは私から受け取った写真をじっと見つめ、すぐに視線を上げて柔らかな笑みを浮かべた。


「すごく素敵な一枚ですね。ありがとうございます。もしよろしければ、サインを入れていただければ」

「えっ、サ、サインですか?」


 思わぬ申し出に動揺の声を上げる。これまで撮った写真にサインを欲しいなどと言われたことはないからだ。


「え、サインなんて書いたことないんですけど、署名みたいになっちゃってもいいですか?」

「いいですよ、なんでも」


 手帳に挿しているペンを取り、大河内さんから戻ってきた写真を裏返す。

 サイン……と数秒悩み、普通に〝嘉門美鈴〟とフルネームを書いた。

 一瞬ローマ字でそれっぽく名前を書こうかとも思ったけれど、相手は日本人の大河内さんだし、漢字で名前を残すのが一番いいと思い直した。

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