外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
メイン料理の銀鱈のグリルが運ばれてきた頃には、お酒も進んでいい気分になっていた。スパークリングワインから魚料理に合うという白ワインが新しいグラスに注がれる。
「嘉門さんから何も話題に出されないということは、警察のほうからはその後、音沙汰は……?」
スタッフがワインを注ぎ終えたタイミングで大河内さんから新たな話題が切り出される。
それが楽しい内容ではなくて、急に現実に引き戻されたような感覚に陥った。
「はい。特に、何も。大使館のほうにも無いですよね? って、あったら大河内さんから先に言われてるか……」
「そうですね。こちらにも何も。解決していないということですかね」
もしかしたら、犯人が捕まり無事に帰ってくるかもしれないという淡い期待もしていた。だけど、その気配は今のところない。
明日には日本に帰るし、もう望みは薄いのかな……。
「でも、帰国後に動きがあればこちらで対応させていただくので、その際には連絡させていただきます」
「はい、ご迷惑をおかけします。でも、やっぱり大河内さんが仰っていたように、盗品が戻ってくるって難しいのでしょうね。仕方ないって、もう半分以上諦めてます」
話をまとめるように言って、笑みを浮かべる。「美味しそうですね」と話題を料理へと替えてナイフとフォークを手に取った。
「本当は、そんな風に仕方ないと割り切れるものではないのでは?」