外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
雇われていた頃よりも収入は大幅に落ちるだろうという覚悟の元、すべて自分の責任において請け負っていくフリーランスというスタイル。
はじめの二年は予想通り収入は大幅に減少した。
それでもカメラが好きで、少しずつでも自分の撮った作品を使いたいと思ってくれる人が増えていけばいいという思いを胸に、貯金を切り崩し地道に活動を続けた。
私の情熱が結果を出し始めたのは、フリーランスとして三年が近づいた頃からだった。
一度仕事の依頼を受けた相手の口コミなどで新規の案件が舞い込むようになり始め、今ではありがたいことに一年以上先のスケジュールまで埋まっている。
その仕事の多くは、雑誌や書籍の旅関連のものが大半を占めていて、私は得意とする風景や動物の撮影を主に行っている。
時たまスタジオでの人物撮影などもやるけれど、フリーランスになってからは海外に出ていることが多くなった。
今回向かうのは、モルディブ共和国。旅行情報誌の一部撮影を依頼されている。
「美鈴?」
搭乗ゲート付近のソファに座り手帳を広げていると、近くから聞き慣れた声に名前を呼ばれる。顔を上げて見えた姿に、思わず「あっ」と声が漏れ出た。