外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「え……?」
「物凄く残念そうな、いや……悲しそうな顔をしているので」
大河内さんの洞察力にハッとする。
顔に出さないように努めたのに、残念を通り越して悲しい気持ちまで見抜かれてしまった。
否定しようか、誤魔化そうか。
そんな思いが頭を過ったけれど、これだけ鋭い大河内さんを躱すことなんてできないと一瞬にして諦めていた。
「大河内さん、鋭いですね。参りました」
認めた私を、大河内さんは黙って見守る。
どこかに連れ去られてしまったカメラの姿形を思い出し、やっぱり喪失感が押し寄せた。
「特別思い入れがあるカメラだったんです。私がフリーランスになるときに、自分の独り立ち記念にって奮発したもので。今まで、たくさん撮影もしてきたものだったから」
「そうだったんですか」
「カメラもなんですけど、そこにつけていたストラップも、人からプレゼントされたもので大切で……」