外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~


 大河内さんの微笑に鼓動が弾み、平静を装うようにグリルされた美味しそうな鱈にナイフを入れる。


「本当に、違いますよ? そういう相手ではなく、ただの幼なじみで。あ、それに少し前に結婚しましたし!」

「なるほど。では、初恋の相手といったところでしょうか」


 ゔ。す、鋭い……。


「大河内さん……エスパーかなんかですか?」

「お。では、正解ということですね」

「まぁ、はい……。でも、本当にずっと友人という関係なので。私が一方的に好きだった時期があったというだけです」


 今更こんな風に蒸し返すと気恥ずかしい話で、誤魔化すようにワイングラスを手に取る。

 魚料理と合うドライな甘味の白ワインで、さっぱりとした風味がさっきまで飲んでいたフルーティーなスパークリングワインとはまた違って美味しい。

< 82 / 254 >

この作品をシェア

pagetop