外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「あの、大河内さん。今日は私、この間のお返しをさせていただくつもりで来たのですが、食事の支払いは私にさせてくださいね。このバーと合わせてできるのでしょうか?」
席に掛けてすぐさまそんな質問をした私を、大河内さんは何故だか鼻でフッと笑う。
「本当にそのつもりで今日は来たんですか?」
その言葉の裏に〝冗談でしょ?〟みたいな風味を感じ、「もちろんです」と即答する。
「この間そう言ったじゃないですか」
「そうでしたっけ?」
とぼけるような言い方をされ、まさかもうすでに支払いを済まされてしまっているのかとハッとした。
「大河内さん、まさか私が席外した隙にまた先に支払ってたり──」
食いつく私に、大河内さんは「大丈夫です」と落ち着いた口調で返す。
「最後にすべてまとめてチェックしますので、まだですよ」
そう聞いて「良かった……」と呟いた私を大河内さんはまたクスッと小さく笑う。
「このリゾートから空港行きの最終便が、九時四十分だそうです」
手元の腕時計に目を落とし、大河内さんは横に掛ける私に目を向ける。
「今、八時を回ったところなので、一時間と少し時間がありますが、早目に出たいということでしたらその前の便もあります。嘉門さんのご都合で決めていただいて」
「私は最終便でも構いません。帰国の準備もだいたいしてきたので、戻って休むだけですので」