外交官と仮面夫婦を営みます~赤ちゃんを宿した熱情一夜~
「じゃあ、いっそのことそういう相手を見つけるとかどうですか? お見合いを避けるために」
「なるほど。それは考えなかったな」
「って、自分のことを棚に上げてなんですけどね……」
素敵な場所に連れてきてもらい、楽しい時間を過ごしてすっかり現実世界のことを忘れていた。
明日にはモルディブを去り日本へと帰国する。日本へと戻れば、お見合いの話が私を待っているのだ。
その迫る現実に一気に気分が重くなる。ちびちび飲んでいたグラスに口をつけ、ついグイっと飲み干してしまった。
「帰りたくないな……このままモルディブにいたいくらい」
「ご両親が帰国を待っていると言っていましたもんね。縁談を用意して」
大河内さんの言葉に、無自覚に小さなため息が漏れる。
自らバーテンダーに声をかけ、同じものをもう一杯オーダーした。
「わかりますよ、嘉門さんの気持ち。俺も、帰国すれば同じ身ですから」
これまで会話の中で自らを〝私〟と言っていた大河内さんが、初めて自分を〝俺〟と言い思わず真横に目を向けていた。なぜだか同時にどきりともする。
大河内さんのほうは至って普通で、それがナチュラルに出てきたものだと感じ取る。
少しは気を許してくれたのかと思うと、なんだか嬉しい気持ちになった。