過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
猜疑心
結婚して初めて肌を重ねた数日後。
夕飯を済ませると、ふたりそろってソファーに腰を下ろした。

「美香、この写真を見てくれないか」

差し出された一枚の写真に視線を向ける。
森の中なのだろうか? 木々に囲まれるようにして、真っ白な教会が建っている。
合間から差し込む優しい日差しがあまりにも綺麗で、まるでおとぎ話の世界のようだと思った。

どこか見覚えのある写真の中の光景に、幼い日を思い出していた。

「これって……」

拓斗の方を見れば、にっこりと微笑み返された。

「この教会、周りの雰囲気も含めてどう思う?」

再び写真に戻して、なんて言ったらよいのか言葉を探す。

「すごく素敵な場所ですね。なんだか、物語の中の世界みたい」

たった一枚の写真から、さまざまな想像が膨らんでいく。
ここで結婚式を挙げたら、きっと素敵だと思う。

どんなドレスが似合うだろうか。
光沢のある生地なら、陽の光が反射してますます輝くだろう。レースをたっぷり使ってふわふわとさせたら、綺麗の中に可愛らしさも演出できそうだ。
考えただけで、なんだかワクワクしてくる。

「私、幼い頃にちょうどこんな森の中の教会で従妹の結婚式に出席したんです。ウエディングドレスを着た従妹が、なんだかお姫様のように見えて。私も着たいってワガママ言って周りを困らせたって、今でも言われるんですよ」
「へえ。きっとその小さな美香は、相当かわいかったんだろうね」
「ふふふ。それからなんです。私もあんな素敵なドレスを作ってみたいって思うようになったのは」

子どもらしく、他にもいろいろな職業を夢見た。なれるとかなれないとか現実的な考えはいっさいなくて、ただ思いのままに。
それでも最後は、ウエディングドレスを作りたいという色あせることのなかった思いにたどり着いて今がある。

「それが美香の原点なんだ」
「はい」

改めて写真を見つめた。
最初は、幼い憧れだった。それがいつの間にか、何かに追われるようにデザインを描き、資格の試験勉強に追われる毎日になっていた。
でも、どれだけ大変な思いをしても、毎日が充実していた。

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