過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
そう思って、ハッとした。ここ数カ月、桐嶋朔也は私の知っている姿とは真逆の本性を見せてきたのだ。
私が好きだった彼は、偽りの姿でしかなかった。

「目的を端的に言えば、費用を抑えるため。オリジナルドレスを作りたいという女性はそれなりにいる。けれど、予算はそこまでかけられない。そこでプランナーは安価で依頼できるデザイナーを抱えておいて、顧客に提案する。ここでいうデザイナーというのが、それほど実績のない駆け出しの人間。つまり、この場合は美香だ」

拓斗の言っている内容は理解した。
フェリーチェのオーダーメイドドレスの料金は、一律ではない。久々莉のデザインは、社内でブランド化されているし、他にもそういうデザイナーが在籍している。彼女らに依頼するとなると料金は一律とはいかない上に、一層跳ね上がってしまう。
それとは別に、通常コースも設定されている。それを担当するうちのひとりが私だ。
有名どころに依頼する費用はなくとも、通常コースならなんとかなるという顧客はそこそこいる。

「桐嶋朔也は、君の実績を意図的に隠していたんだろう。高評価を受ければ、徐々に知名度も上がっていく。そうなると、指名を受ける機会も出てくるし、ブランド化されれば依頼料も高くなる」

それはまさしく、久々莉が語ってくれた彼女自身の話と同じだ。私が入社した頃にはすでにデザイナーとして成功していた久々莉だが、当然彼女にも新人の時代があった。彼女はその時携わった客の評価を受けて、その作品がポスター化されるなどして知名度を上げていった。

そんな久々莉を、ある有名モデルが自身のウエディングドレスのデザイナーに指名したのをきっかけに一気に有名となり、その実力が認められたのだ。
その話を聞いて、私も小さな希望を抱いたものだ。ただ、現実はそう簡単な話ではない。

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