過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「さっきも言ったように、知名度を上げたデザイナーは次第に安価で依頼ができなくなる。桐嶋としては、頭の痛いところだったのだろう。接客に慣れた美香なら、顧客との間に問題を起こす心配はまずない。それに、デザインで満足させられるだけの力もある。別の新人デザイナーに任せるよりよっぽど楽だし、桐嶋自身の実績にもつながる」

急な展開に、思考がついていかなくなりそうだ。

「調べたところ、美香より後に新しく入ったデザイナーの中には、どうして採用されたのか首を傾げるレベルの者が混ざっていた。ここのところのフェリーチェの運営方針には疑問しかない」

どういう意図があるのか不明だが、数年前にフェリーチェの経営陣が一掃された。上層部の意向で詳細は伏せられてしまったが、新米の私にも声をかけてくれた人も去ることになってしまい、残念な思いをした。

おまけに、上層部の中にデザインの経験者が居なくなってしまったところも、問題があるのかもしれない。

「憶測の域に過ぎないが、その実力不足のデザイナーは、おそらく経営陣の口利き採用だろう。そのしわ寄せが、美香にも来ていたはずだ。本来なら様々な仕事を経験させるはずなのに、エテルナの依頼ばかり引き受けていただろ?新人に受け渡していいはずの仕事を任せられなかったからだ」
「そうですけど……」

たしかに、私自身も以前は他社の依頼も引き受けていたけど……。

「力不足の新人は、ほかのデザイナーの下で鍛え直しをせざるを得なかった。なぜそんな非効率なことをしているのかと疑問だったが、縁故採用したデザイナーに有名デザイナーの下で学んだと箔をつけさせるためかもしれないな。どうしようもない人間がトップに立てば、ろくなことにならないな。桐嶋はよくフェリーチェに足を運んでいたようだし、その実情に気づいていたのかもしれない。だからなおさら美香に対する評価を隠ぺいして、現状に縛り付けようとした」
「そんな……」

久々莉の下に、手のかかる新人がついたとも聞いていたけれど……。
フェリーチェの内情もだが、まさか朔也がそんな裏工作をしていたなんてにわかに信じがたい。
朔也の会社を利用する人は、どちらかというと理想を詰め込んだこじんまりとした式を希望する客が多かった。費用はそれほどかけられないが、可能ならオリジナルドレスを着たいという依頼は、コンスタントに入っていた。とすると、一体朔也は何件ほどの隠ぺいを行ったのか。

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