過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
拓斗はいたっていつも通りだ。数時間前に久々莉と話していたなんて微塵も感じさせない。逆に私の方は、なんだかぎくしゃくしてしまう。

なんとなくそれが拓斗にも伝わってしまったようで、食事を終えてそろってソファーに座ると、
隣から様子を伺うようにしてくる気配を感じる。

「何かあった?」

深刻にならないよう、軽い調子で拓斗が尋ねてくる。

「ドレスを完成させられて、気が抜けてしまったのかも」

真由子にも言ったその場しのぎの言い訳をすれば、拓斗は「そうか」と返してきた。
隣り合って座った私の髪を、自身の指に巻き付けたり梳いたりするのは変わらずいつも通りだ。おかしな様子はない。やはり、あの電話はなんでもなかったのかもしれないと思えてくる。

でも、朔也もそうだった。
あの人と拓斗を比べるなんてあり得ないとわかっている。それに、ふたりを並べるなんて嫌だと思うのに、ここのところその考えが止まらない。助けてくれた拓斗に対して、あまりにも失礼なのに。

拓斗の言動からはうしろめたさなど少しも感じられないし、私に何も言ってこない。
それなら何も聞いていない私は信じ続けるしかないと、事実から必死に目を背け続けた。


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