過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「か、彼とは縁があった。それだけ。タイミングも浮気じゃないわ」
「口ではなんとでも言えるさ」
「き、桐嶋さんこそ、いろいろ聞いてるから」

長い間離れているうちに魔が差したと言われたら、許すかどうかは別としてそういうケースもあると理解できると思う。
でも、朔也の場合は違う。私がパリへ行くよりずっと前からの浮気だ。しかも、相手が複数いる可能性もある。

店員がコーヒーを置く間になんとか気持ちを落ち着かせようと、グラスに浮かぶ氷を見つめた。カラリと音を立てて滑る氷は、まるで私たちの中がどうしようもなく拗れてしまったのを表しているようで、暗い気持ちにさせられる。
冷たいコーヒーをひと口飲んで、まっすぐに朔也を見据えた。

「あなたは私と付き合いながら、いろんな女性と会っていたのよね?」

決して問い詰める気持ちはないし、恨みがましさもない。それは私の声音からも感じられるはずだ。
自分の悪事を棚に上げて、私が浮気をしたと決めつけてくる朔也の態度が許せなかった。

「はは。どうして知ったかは……まあいい。でも、美香が一番だった」
「嬉しくないから、そんなの」

なんだか朔也が知らない人のように見えてくる。
私の知っている朔也は、笑顔の似合う明るい人だった。こんな裏の顔があったなんて、想像すらしてなかった。
つまり私は、彼の外側しか見えていなかったのだろう。

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