過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「なあ、やり直してくれよ。美香にちゃんと償いたいんだ」

あくまで下手に出ているように見せかけてくるけど、不遜な態度を隠しきれていない。そんな朔也に、再び怒りがわいてくる。

「ありえないから。どうぞ、三崎さんとお幸せに」

そう言い捨てて、伝票を手に立ち去ろうとする私の腕を、朔也が引き留めるように掴んできた。
視線が合うと、意地悪そうにニヤリとしてみせた。

「知ってるか? 神山拓斗と梶原久々莉のこと」

私がピクリと反応したのを、朔也は見逃さなかった。視線だけで、もう一度席に着くように促してくる。
戻るべきではないと頭の中で警鐘が鳴り響いているのに、朔也の出したふたりの名前を聞き流せなかった。

ぎこちなく席に着いた私を見て、朔也は満足そうな顔をした。彼に弱みを見せたくないのに、強がることすらできそうにない。

「あのふたり、ずいぶんと親しげだな」

こめかみがひきつってしまうけど、うまく髪で隠せているだろうか。言葉を発せずにいる私を煽るように、朔也はさらに続ける。

「俺、見たんだけど。ふたりが一緒にいるところを」
「え……」

グラスに浮かんだ氷が、再びカラリと涼しげな音を立てた。その場違いな音色に、一瞬ここがどこなのかがわからなくなってしまう。
朔也は思わず反応した私に気をよくしたようだ。どこか、憐れんでいるとすら思えてしまう、わざとらしい視線を向けてくる。そこには嘲りの色も見え隠れしているかもしれない。

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