過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「梶原さんはおそらく、アローズグループに入るはずだ」
「久々莉さんが、アローズに?」
「そう。神山拓斗の手引きで」

拓斗の、手引きで?
ふと、立ち聞きしてしまった会話がよみがえってくる。

『久々莉さんはいつ帰ってきてくれるんですか?』
『俺は約束を通り、美香を迎え入れました。久々莉さんも、いい加減見切りをつけてもいいじゃないですか? 俺の方はいつでも歓迎しますよ』

拓斗が久々莉に戻ってくるように話していたのは事実だ。決して聞き間違いではない。
もしかして久々莉は、もともとアローズの人間だったというのだろうか。

「心当たりがあるようだな」

朔也の言葉に、ギクリとした。この人の前で弱みなど見せたくないのに、動揺した情けない姿を晒してしまう。

「美香はずいぶん梶原さんに気に入られていたようだ」

どこか忌々しい口調で話す朔也を、呆然と見つめるしかできない。

「俺が裏でやってることに気づいた梶原さんが、あの男を頼ったんだよ。美香をどうにかしてやってくれって」

話しながら、朔也のイラ立ちが募っていくのを感じる。

「な、なんでそんなことをあなたが……」
「顔が広いからな。いろんなところから情報が入る」

確かに、朔也は人たらしな一面がある。明るく気さくな人柄に、初対面の相手でも話が弾む様子は私もよく目にしてきた。
フェリーチェの社員に、同じ業界の人。三崎さん絡みの関係者……。情報筋はいくらでも思い浮かぶ。

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