過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
でも今私が恐れているのは、それら生活の保障がなくなるという現実ではない。拓斗を失うかもしれない未来が、どうしようもなく怖い。そう思うと、次々溢れてくる涙を止められなかった。

せめてみっともない姿は見せたくなくて、帰宅するとすぐに赤くなってしまった瞼を冷やしつつ、家事に専念して気持ちを立て直した。


「ただいま」

すっかり聞き慣れたその声に、ビクリと肩が揺れた。

「お、おかえりなさい」

少々上ずった声は、キッチンと玄関という距離にごまかせていると信じたい。

預かったジャケットを胸に押し当て、俯き気味にそそくさと身をひるがえした私の手を、拓斗がさっと掴んで引き留めた。何かを悟られてしまったかと、思わず身を強張らせる。

「美香、何かあった?」
「べ、別に、何も……」
「本当に?」

身をかがめてこちらを伺ってくる拓斗から、思わず顔を背けてしまう。

「うそだな。何があった?」

何も答えられずに唇を噛み締めた。

「美香。傷ができてしまう」

拓斗が私の唇に触れてくるから、ドキリと胸が跳ねた。
これほど荒んだ気持ちでいるのに、彼に触れられて嬉しく思う自分がなんだか惨めな気持ちになってくる。

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