過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「自力で未来を切り開く久々莉さんの姿に、昔から憧れていた。間近に見てきた久々莉さんの生き方は、いつも俺に勇気を与えてくれたから」
「勇気?」

首を傾げる私に、拓斗が微笑した。

「ああ。いろいろと責任のある立ち場を任されるのは、なかなか大変で。そんなとき、久々莉さんの生きざまを思い出しては、自分もそうありたいと思ってきた」

本当に拓斗の久々莉への思いは、尊敬の域を出ないのだろうか?
そんな疑念が顔に出ていたのか、拓斗が苦笑した。

「彼女に対しては、それ以上の感情はいっさいないと断言できる。彼女には世話になるばかりで、こちらから一方的に近づくのがほとんどだ。向こうにしてみれば、完全に世話の焼ける弟扱いだよ」

近づくとは、どういう意味だろうか?

「偶然耳にしてしまった電話で、あなたは約束通り私を守ったから、久々莉さんに戻ってくれって言ってました。だからてっきり……」
「てっきり?」

俯きそうになるのを必死にこらえて、正面に座る拓斗を見つめた。

「久々莉さんとあなたは、わけあって別れてしまった間柄なのだと。彼女の部下である私を守る約束を果たせば、久々莉さんと寄りを戻すとでも約束してたのかもとか、いろいろ考えてました」

一瞬きょとんとした拓斗は、その後「そんな……」と項垂れて両手で顔を覆ってしまった。

「まさか、そんな誤解をされてるとは……。様子がおかしいとは思っていけど」

小声でぶつぶつと呟く拓斗を見ていると、なんだかそれまでの緊張が緩んでくる。

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