過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「……外から、見かけるぐらいだったから」

拓斗をじっと見つめると、やがて片手で目元を覆ってしまった。耳もとが赤くなっているのは気のせいじゃないと思う。

「いや。久々莉さんを待っていた時に見かけただけだ」

少しだけ早口になって、まるで言い訳をしているようだ。

「とにかく、俺が見かけた美香はいつも忙しそうに動き回っていて、一生懸命で、久々莉さんが気に入るのも納得だった」

思わず〝ストーカー〟と思い浮かんでしまったが、慌てて打ち消した。

「俺が美香を好きになるのに時間はかからなかった。見かけるたびに気になって、気づけば久々莉さんに会いに行っているのか、美香を見に行っているのか自分でもわからなくなっていた。仕事にひたむきな美香に、俺は惚れたんだ」

ストレートな告白に、頬が熱くなってくる。でも、彼が私を好きでくれていたと実感すると、言いようのない嬉しさがこみ上げてきた。

「俺の気持ちなんて、久々莉さんにはすぐにばれてしまった。ただ、美香には長く付き合っている恋人がいると聞いて、それなら諦めるしかないと見ているだけに甘んじていた。美香が幸せなら邪魔するつもりはなかったから。けれど、そうではなかった」

朔也の話もその頃から聞いていたのだろう。拓斗が苦しげに表情を歪めた。

「久々莉さんに、禄でもない男からなんとか美香を守ってくれないかって言われたときは驚いた。美香の相手は一体どんなやつだって。久々莉さんはいつも言っていたよ。才能のある子だから、あんな男につぶさせてはいけないって」

元上司の自分に対する評価に、自分の努力が認められたと心が温かくなる。
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