過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「運命、だったんでしょうか」

そんな安易な言葉で片づけてはいけないと、自身で否定していた。
でも、こうして私たちの出会いの裏側を聞けば、あれは運命だったのではないかと思いたくなってくる。

「ああ。あの夜、偶然にも美香に出会って一緒にいられた時間を、俺は運命だと感じた」

あのとき、拓斗の存在がどれだけ自分を救ってくれたのか、彼は知っているだろうか。
酔いが冷めて後悔したのはたしかだ。予想外の再会にも、心底驚かされて思わず逃げ出しそうになった。

でも、あの出会いがあったからこそ、今の私がある。
朔也に突然別れを告げられて話をする機会すら与えてもらえなかった辛さや、裏切りを知ったときのむなしさ。会社に見放されたやるせなさ。ひとりだったら、私はきっと潰れてしまっていただろう。

「だから、俺の気持ちを美香が信じていなくても、まずはかまわないと思った。信頼関係は夫婦になってから築いても遅くない。とにかく、美香が欲しかったんだ」
「拓斗……」

彼の独白に胸がいっぱいになって、言葉がうまくでてこない。
私の知らないところで、これほどまで彼に守られていたと思うとたまらない気持ちになって、思わず抱き着いていた。

「ありがとう。私の側にいてくれて。守ってくれて、本当にありがとう」

抱きしめ返してくれる拓斗にやっとの思いでそう告げると、まるで私をなだめるように彼の大きな手が頭を撫でてくれる。その手の温かさと彼の独白に勇気づけられて、自分も思いを告げる覚悟を決めた。

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