過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
そもそも俺が義姉のもとを訪れていたのは、彼女をフェリーチェから引き離すのが目的だった。
ほかにもちょっとした用事はあったが、一番の理由はそれだ。まあ、ここ最近は写真撮影にかこつけた、美香との結婚式の相談がメインだったが。

久々莉にフェリーチェはもったいない。経営陣からデザイナー経験者を追い出し、私利私欲の追求に走り始めたこの会社にはもう価値を見出せなかった。
力のないデザイナーの縁故採用までして、その矛盾を埋め合わせるために、ほかのデザイナーをフル稼働させる。もはや意味がわからない。義姉は、ただ利用されているだけだ。

もちろん久々莉はそれをわかっていたが、すぐに決断を下せずにいた。それは、前社長にお世話になったという恩義と、おそらくずっと気にかけてきた美香の存在もあったのだと思う。一見冷淡そうに見えがちな義姉だが、実は情に厚い人物だと俺たち家族はとっくに気づいている。
それならば、先に美香を連れ去ってしまえばよいと目論んでいたのは否定しない。


ある日、珍しく久々莉の方から呼び出されて行ってみれば、何やら思いつめた顔をした彼女がいた。

「拓斗君、野々原さんが好きでしょ?」

知られているとはいえ、面と向かってストレートに言われて思わず狼狽えそうになった。だが、義姉の暗い表情に何かあると感じ、ごまかさずに答えた。

「はい」
「彼女の付き合ってる人ね、もうずっと浮気してるみたいなの。しかも、複数人と。でも、野々原さんは気づいていないようで……」

相手の男がどこの誰かなど知ってしまえば嫉妬で狂いそうで、これまで気にしないようにしてきた。だが、彼女を大切にしていないとなれば話は別だ。

「私も、それとなく野々原さんに声をかけてたのよ。でも、相手にうまく丸め込まれてるのか変わらずなの。それと、これは不確かな情報なんだけど……」

義姉からもたらされた情報とは、美香が付き合っているという取引先の男が、どうやら彼女が不利になるように不正を働いているのではないかというものだった。
自力ではどうしようもなかった義姉は、俺を頼ってくれたようだ。

「許せない」

美香が毎日遅くまで仕事に向き合っている姿を知っているだけに、その男に対して怒りが湧いてきた。

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