過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「拓斗君、あなたが本当に野々原さんを大切に思うのなら、助けてあげて欲しいの」

それが単に美香をその男から引き離して欲しいだけなのか、それともそれ以上の何かを期待しているのかはわからない。けれど義姉の思いに関係なく、俺は美香を必ず自分のものにすると心に決めた。

それから久々莉に美香の情報を聞きながら、付き合っているという桐嶋朔也について調べていった。浮気に関してはすぐにいくつもの情報が上がってきた。怒りのあまり今すぐ別れさせたいと思ったが、久々莉に諫められて好機を待った。
その間のじりじりと焦るような時間をよく耐えたものだと、自分でも思う。忙しくしていた美香が、桐嶋と会う時間がそれほどなかったのだけは救いだった。

「野々原さんには、パリへ研修に行くように勧めたわ」

それは桐嶋によって握りつぶされていると思われる美香の才能を、公平に評価されるべきだという義姉の密かな主張と、桐嶋朔也から物理的に距離をとらせるという思惑からの提案だった。美香はほとんど迷わずにそれを受け入れたという。

その研修の存在を事前に俺が知っていたのは、義姉ですら知らない話だ。研修の話が出れば久々莉は間違いなく美香を推すはずだと踏んで、秘密裏に仕掛けたものだから。

「野々原さんが向こうへ行っている一年が、あなたにとってのチャンスよ」

もちろん、自分もそれはわかっている。
桐嶋は、美香のいない間に間違いなく浮気をするだろう。改めてその証拠を集めるなど簡単だ。彼は派手に遊びすぎていたから。
そう思っていたら、桐嶋は予想の上を行く行動をとった。

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