過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「三崎グループのご令嬢と、婚約……」

美香がパリへ渡って数カ月した頃、もともと予定されていたフランスへの出張を前倒しして、後を追うようにして自分も渡仏した。そんなときにもたらされたのが、この情報だった。
日本に残っていた事情を知っている部下や義姉が、その都度情報を流してくれる。
桐嶋の婚約の話はまだ公にされておらず、どうやらあいつ本人が同僚に自慢げに漏らしたにずきないようだ。だから、美香にすら伝わっていないはず。ただ、知られるのも時間の問題だろう。

さすがの久々莉も、桐嶋の結婚には呆れて言葉がなかったぐらいだ。
ただ、こちらとしては好都合。虎視眈々と狙っていたこの好機を逃すわけにはいかない。

美香の不幸を喜ぶわけではない。願うのはただひとつ。彼女には幸せでいて欲しいというだけ。
桐嶋にそれを叶えるつもりがないのなら、自分が取って代わるまでだ。少しでも早く彼女に接触して側にいられる権利を得たいと、決意を新たにした。

桐嶋の情報になんともすっきりしない心境になったのを晴らしたくて、なにげなく寄った知り合いのバーで、まさか美香本人と遭遇するとは思わなかった。
予定では美香の職場へ訪問した際に接触するつもりだったが、これもタイミングだと彼女の隣にさりげなく座った。

傷ついた美香を慰める許しを得られたときは、何物にも代えがたい幸せを感じた。
しかし、彼女が本当に求めたのが自分ではないとわかっていた。
初めて美香を抱いたあの夜、何度願っても彼女が俺の名を呼ぶことはなかった。それは美香の心が誰の元にあるのかを如実に表しているようで、辛くなかったと言えばうそになる。

それでも、彼女が欲しいという気持ちに変化はなかった。いや、ますます大きくなったほどだ。
これから時間はいくらでもあるのだ。ゆっくり美香の心を自分に向けさせていけばいい。

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