過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
再び私の胸元に舌を這わせた男は、すっかり立ち上がった頂を熱い口の中に含んだ。

「やぁ……」
「本当に? 嫌なら全力で押しのけて」

その口調には「無理だと思うが」と言外に仄めかされているようで、煽られるままわずかな抵抗を試みた。離された両手で相手の胸元をなんとか押し返すも、あまりに非力で逆に甘えたように思われてしまったかもしれない。
再び耳元でくすりと笑いをこぼした男は、さらに下の方へと手を忍ばせていく。

美香(みか)……」

私の中を暴く彼の掠れた声はどこまでも甘く、耳に纏わりついてくる。

「美香、好きだ」

けれど、呼ばれるたびにどうしようもない切なさがこみ上げてきて、涙がこぼれそうになってしまう。
この場限りの睦言に心を震わせたのはほんの一瞬で、縋ってはいけないとすぐさま否定した。
押し寄せる快感に流されながらも、それが本当に求めていたものとは違うと本能が訴えてくる。

私が求めていたのは、この声じゃない。

身をゆだねてしまったのは、自分の心の弱さのせいだろうか。
極限にまで高まった熱が爆ぜるその直前、『ごめんなさい』と心の中で囁いたことに、私を抱くこの男は気づいているのかもしれない。

それでも、余韻に浸りながらゆっくりと意識を手放す私を包み込む温かさは、そんな浅ましい自分をも許してくれるのではないかと都合よく思ってしまった。

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