過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
そこに、日本からの国際電話がかかってきた。私宛だったようで、何事かと緊張気味に応対した。

『野々原さん?』
「久々莉さん。何かあったんですか?」

チラリと時計に視線を走らせると、こちらの時間で十二時半を指している。日本だと十九時半頃のはず。フェリーチェの定時は曜日によって違うが、今日はどうだったかすぐには判断できない。遅くまで残る日が多い久々莉なら、たとえ定時を過ぎていてもまだ仕事をしていたのだろうが。

『ちょっと個人的な込み入った話なんだけど、今大丈夫かしら?』

ちょうどお昼休憩の時間だ。おそらく、久々莉もそれを見越してかけてきたはず。こちらが夜になるのを待てずに思わず連絡したという雰囲気が、受話器から伝わってくる。
どこか焦れたような彼女の声に、きっとメールでは伝わり切らないと判断した内容なのだと確信した。

周りに断って個室に入ると、早速久々莉の話を聞いた。

『あなた、大丈夫?』

いつも自信に溢れた久々莉らしくない、どこか戸惑いを隠せない要領を得ない話しぶりに眉をひそめた。

「何が、ですか?」
『桐嶋君のこと』
「……」

思わず受話器を握る手にぐっと力がこもる。てっきり仕事がらみの話かと思ったが、そうではなかったようだ。
別れを告げられたと、久々莉に知られてしまったのだろうか。


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