過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
ウエディングドレスとタキシードを提供する会社『ドレスメーカー・フェリーチェ』。
ここに私、野々原美香はザイナーとして就職した。まだまだ駆け出しで、久々莉の下について日々勉強中の身だ。

彼女につくのは楽ではない。人気デザイナーの久々莉は、常に仕事に追われている。そのため、彼女の助手のような仕事が山のように回ってくるのだ。
あまりの忙しさに、自分のデザインに割く時間はどんどん削られてしまう。それでも、本物を間近に見られるのはなによりもためになるからと、必死についてきた。

「野々原さんは確か、フランス語が話せたわよね?」
「日常会話程度でしたら」

中学生の頃、早々にウエディンドレスのデザイナーになると進路を決めた私を心配した両親は、『デザインの勉強に海外へ行く可能性もあるんじゃないの?』と、英会話を習うように提案してきた。
今思えば、万が一私の気が変わったらと心配した両親の、他に進む可能性を少しでも残してやりたいという気遣いだったのだろう。

両親の口車に乗せられて通ってみれば思いの外楽しくて、さらにフランス語もと講義を増やしたほどだ。あの頃身に付けたものが、本当に役立つ状況が訪れるとは思ってもみなかったが。


「野々原さんがいなくなるのは私としても痛いところだけど、一度、世界を見るのも大事よ。間違いなく、あなたのプラスになるわ」

一年もの間、パリでデザインの勉強をさせてもらえる。これはまたとないチャンスだ。今を逃したら、こんな恵まれた機会は二度と訪れないかもしれない。
即答はしなかったものの、久々莉が勧めてくれた時点で私の心は決まっていた。

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