過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「時間はかけられないから簡単なもので。任せてもらってもいい?」
「はい」

同意をすると、拓斗はすぐにオーダーをした。

「美香、顔を上げてくれないか」

ここまで来てしまった以上、無言でやり過ごすわけにもいかない。
恐る恐る前を向けば、まっすぐにこちらを見つめてくる視線にぶつかって、思わず怯みそうになった。

「やっと目が合った」

嬉しそうに微笑む拓斗に、一瞬呆けてしまった。彼はどうしてこんな柔らかな表情を私に向けてくるのだろうか。

「俺の登場は、ずいぶん驚かせてしまったようだね」
「え、ええ」

驚いたなんてものじゃない。思わず隠れてやり過ごそうとするぐらいには、気まずくて顔を合わせたくないお相手だ。

「まあ、幸せな心地良さから思わず寝入っていた俺を、伝言ひとつ残さず姿をくらますぐらいだしな」
「ご、ごめんなさい」

顔にはたしかに笑みを浮かべているのにどこか棘のある物言いに、思わず謝罪してしまった。でも、あの場で伝言を残す必要などあったのだろうか。

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