過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
そう考えて、ハッとした。

「し、支払い……」

あの夜泊ったのは、高級ホテルで有名なアローズのおそらくスイート。一体、ひと晩いくらするのだろうか。桁が違うのは間違いないはずで、嫌な汗が背中を伝っていく。

「くっ、ははは」

おそらく真っ青になっているだろう私を見て、突然笑い出した拓斗に度肝を抜かれてしまった。
そんなにおかしな発言をしたのだろうか。考えてみてもわからない。

「支払いって、さすがにそんなケチなことは言わない」
「で、でも、あの部屋はすごく豪華で……」
「初対面の男についてきてしまうぐらいには酔っていたと思うけど、そこまで覚えてるんだ」

なんとも意地悪な言い方だが、私としてもそこを指摘されると気まずい。
彼の言う通り、あの晩は正常な判断ができているのか怪しいほど酔いが回っていたし、気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。
あの行動は正しかったのか。今朝までの私なら、どちらでもないと思っていただろう。浮気でもなければ、何らかの被害に遭ったわけでもない。根拠のない罪悪感だとか困惑は、この際気にしなければいい。

しかし、こうして職場で再会してしまったとなれば話は別だ。あの夜の行動は、あまりにも軽はずみすぎたと後悔しかない。

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