過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
私がウエディングドレスのデザイナーを目指すようになったのは、幼少期に出席した従妹の結婚式がきっかけだ。木々に囲まれた教会で開かれた、家族と親しい人たちだけを招いた挙式。
幼すぎてさすがにその詳細までは覚えていないものの、純白のウエディングドレスに身を包んだ幸せそうな従妹の姿だけは、しっかりと瞼に焼き付いている。
素敵なドレスが自分も欲しくて、駄々をこねて両親を困らせていたという話は、親族が顔を合わせれば毎度のように語られるエピソードだ。

あの時、従妹が本物のお姫様に見えた。
絵本が大好きだった私は、森の中の教会で眠り続けるお姫様を王子様が迎えに来たみたいだと、小さな胸をときめかせていた。

成長するにしたがってパン屋やケーキ屋に惹かれ、内容はよくわからないのに〝キャリアウーマン〟という言葉にも憧れた。その時々でいろいろな夢を抱いたけれど、中学生になって現実として進路を意識し出したときに真っ先に浮かんだのは、従妹が纏っていた純白のウエディングドレスだった。
素敵なウエディングドレスを、自分で作ってみたい。
その思いのまま高校は被服科に進学し、服飾系の専門学校を卒業すると、ここフェリーチェに就職をした。


久々莉から勧められた研修は、会社の方針でより力のあるデザイナーを育てるために計画されたものだ。手を挙げれば誰でも参加できるものではないが、上役たちも一目置く彼女の推薦となれば、ほぼ通るだろうと思われる。

「私、パリで勉強してみたいです」

せっかくのチャンスを逃す手はないと、翌日すぐに返事をしていた。
ほんのわずかに頭を掠めたのは、恋人である桐嶋朔也(きりしまさくや)の存在だ。彼がどんな反応をするのか不安ではある。
でも、これは自分の人生なのだと相談なく決断した。
決して彼をないがしろにしているわけではない。ただ、たとえ彼が異を唱えたとしても、結局のところ自分の答えは変わらないとわかっていただけだ。

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