過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
どこかふわふわとしたままその後の仕事を片付けると、寄り道せずまっすぐにアパートへ帰宅した。
椅子に座ってバッグから取り出したのは、拓斗に手渡された名刺だ。『裏に個人的な連絡先を書いておいた』と別れ際に言われた通り、プライベートの電話番号とアドレスが書かれていた。

『決心がついたら……いや、そうでなくてもいい。いつでも頼りにしてくれてかまわない。何かあったら連絡して』とも言われたが、おいそれと連絡できる相手ではない。

昼間のあれは、一体何だったのだろうか? 抱きしめられたのを思い出すと、頬が火照ってくる。
関係を持ったとはいえ、拓斗は恋人でもなんでもない。しかも、会ったのはわずか二回。
そんな相手に、街中で白昼堂々と抱きしめられるなんて恥ずかしすぎる。

日に日に寒さが増してくる季節だと言うのに、拓斗のことを考えると体が熱くなってしまう。
浮ついた気持ちをごまかすように、パタパタと手で顔をあおいだ。


気分転換にシャワーを浴びて冷静になると、改めて今日聞いた話を思い起こしてみた。
拓斗が結婚して欲しいと言ったのは、ビジネスの一環のようだ。私にそれほどの価値があるとは思えないのはひとまず置いておくとして、彼は私の力を求めている。

決して、恋愛的な意味で求婚されたわけではない。それらしい雰囲気を作って甘い言葉をかけてくるけれど、男女の付き合いに慣れていそうな彼にしてみたら、きっとリップサービスなのだろう。

ただ、示された提案が魅力的だったのは否定できない。
私の好きなようにしていい。デザインを学ぶ場も提供してくれて、仕事ももらえる。
フェリーチェに不満があるわけではない。ただ、さらに学べるとなれば、私はそちらを選択したくなる。

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