過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
黒い陰謀
「え? どういうことですか?」

電話口に向かって思わず大きな声を出してしまっていた。
個室に移動しておいてよかった。オフィスには今、日本語が堪能な社員がいないとはいえ、目の前で不穏な言葉と雰囲気を醸し出したら、後からどうしたのかと追及されかねない。

電話の相手は、フェリーチェの代表を務めている園田冴子で、その口調はずいぶんと高圧的だ。

『ですから、野々原さんがメインで対応していたエテルナの方から、提携関係を見直したいと言われたんです。何か心当たりがあるんじゃないですか?』

朔也の勤務するエテルナが?
私がメインに対応していたと言われてもそれはパリに来る前の話で、離れてから七カ月以上も経つ。それ以降はほかの人に引き継いでもらっているというのに、今さら何があるというのだろう。

「私、こちらに来る前に引き継いだんですけど?」
『それは知っていますが、あちらは前任者とのトラブルと言ってるんです』

前任者とはもちろん私だろう。でも、トラブルだなんて覚えはまったくない。
担当者の桐嶋朔也と別れた以外は。

「エテルナの方は、どなたがそうおっしゃってるんですか?」
『桐嶋さんです』

何を今さらという雰囲気が、その口調から伝わってくる。
不覚にも、その名前を聞いてとズキリと胸が痛んでしまった。

< 65 / 187 >

この作品をシェア

pagetop