過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
翌日になってもフェリーチェからの連絡はなく、アパートに引きこもってひたすらスケッチブックを眺め続けていた。今は会社側からの接触を待つしかないのが、ひどくもどかしい。

日本が夜になった頃に、もしかしてつながるかもしれないと一縷の望みをかけて朔也に電話をかけてみたものの、つながらないという現実に心を痛めただけだった。

頭の中がこれほどぐちゃぐちゃなままでは、新婦を笑顔にするようなデザインなど描けそうにもない。

「はあ……」

ため息ばかりがこぼれてしまう。
このまま流されて、犠牲になんてなりたくない。でも回避する術が見つからず、どうしてよいのかわからない。

ふと立ち上がったのは、夕方になった頃だった。
帰国をするのなら、荷物をまとめておいた方がいいだろう。おそらく、もうここには戻って来られないだろうから。
それに、ここで頑張ってきた時間に区切りをつければ、心を新たにして園田に向き合えるかもしれない。

もとより期限は決まっていた研修だ。持ち込んだものはそれほど多くない。こちらで買い足したものは帰国するときに捨てようと見越してお金をかけていないし、そろえたものも必要最低限だ。クローゼットからトランクを引っ張り出すと、さっそく荷造りを始めた。

何も考えずにできる作業は、気をまぎらすのには好都合。たとえこれが前向きな帰国ではなかったとしても、一時嫌なことを忘れられた。

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