過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
どれほど時間が経っただろうか? 辺りはすっかり暗くなっている。
ふと顔を上げたタイミングで、玄関のブザーが鳴り響いた。

「誰だろう?」

ここへ人が来るなどめったにない。遊びに来ているわけじゃないから日本から人を招くなどしなかったし、招待するほど親しい友人ができたわけでもなかった。せいぜい仕事関係の人が気にかけて顔を出してくれたぐらいだ。

灯りが漏れているだろうから、居留守を使うのもはばかれる。

「はい」

インターフォンなどという便利なものはない。すぐに開けるわけにもいかず外に向かって声をかけたが、思わず日本語になってしまったと慌てて言い直そうとしたそのとき、扉の向こうにいる訪問者が声をかけてきた。

「神山拓斗だ。少しでいい、開けてくれないか」
「え?」

どうして彼がここを知っているのだろうか? うっかり話してしまったなどという覚えはまったくない。

「誓って何もしない。だから、顔だけでも見せて欲しい」

真剣な声でそんなふうに念を押されたら、信用してしまいそうになる。
短時間とはいえ、いろいろとプライベートな話をして、さらにはプロポーズまでされた間柄だ。不本意ながら、彼と仲が深まってしまったのは否定しないし、私の中で拓斗に対する警戒レベルが、出会った頃より低くなっているのは認める。

極めつけは、立場のある人だから変なことはしないだろうという、無条件の思い込み。
冷静に考えれば、なぜか私の個人情報を知っている危険人物だというのに、弱っていた私は思わずドアを開けてしまった。

< 71 / 187 >

この作品をシェア

pagetop