過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「朝言ったように、これからについて話をしようか」

食事を終えてそう切り出した拓斗に、姿勢を正して向き合った。

「まずは確認させて欲しい」

強引に話を進める気はないのだろう。きちんと私の反応を気にかけてくれる様子がありがたい。

「美香は、フェリーチェとの関係をどうしたい?」
「……会社側の反応は私を非難する様子で、もう戻れないと思っています。それは覚悟しました」

あの高圧的な園田の声音を思い出すと、思わず震えそうになる。
取るに足らない駆け出しのデザイナーよりも、付き合いの長い取引先の方が大切なのは当然だ。
それに、もしこのまま勤務できたとしても、元のポジションにいられる保証はない。
あんな疑いをかけられてしまえば、対外的な業務はいっさいなくなるだろう。事実無根とはいえ、一度疑われた人間の信頼は簡単に回復できないだろうから。
それどころか、デザインすらさせてもらえない可能性もある。そうなったら、私は完全に会社のお荷物だ。

「未練はない?」

尋ねられて頭に浮かぶのは、やはり久々莉の存在だ。
私のパリ行きを推薦してくれたのは彼女だ。もしかして、こんな状況になったせいで久々莉も責められているのではないかと、不安に襲われる。

「ずっとお世話になってきた上司がいるんです」
「ああ、美香の心配をしていたという上司だな」
「ええ。その人へ不義理になるようなことだけはしたくないですし、今回の騒動で迷惑はかけたくありません」

私のせいで久々莉まで責任を問われるなんて、絶対にあってはならない。

< 80 / 187 >

この作品をシェア

pagetop