過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「それから、あらためて言わせて欲しい」

おもむろに立ち上がった拓斗は流れるような仕草で移動して私に近づくと、目の前で膝をついた。
一体何をするつもりなのかと、思わず体が強張ってしまう。

私の手をそっと取った拓斗は、まっすぐに見つめてくる。

「野々原美香さん。俺と結婚してください」

何の迷いもなくきっぱり言った彼の潔さに、思わず見惚れてしまった。
地位もあってこれほど容姿の整った男性が、跪いて私に求婚してくるなど、まるでドラマの中のできごとのようだ。

仕事も恋人も失った何も持たない私を、拓斗は全力で救おうとしてくれている。
付き合ってもいない相手からのプロポーズだというのに、彼の真摯な姿にじんわりと胸が熱くなっていく。

周りの人に見放されて、心細くなっていたせいだけだろうか。彼が自分を受け入れてくれることを、心の底から嬉しく思った。

「はい」

不安はある。視線を合わせて「好きだ」とか「愛してる」とか言われたわけでもない。戯れに言われた言葉はノーカウントだ。
でも彼に人生を預けると決めた以上、もう迷ってなんかいられない。

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