過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「これを」

いつの間に用意していたのか、拓斗は私の左手の薬指にそっと指輪をはめた。そのトップには、一粒のダイヤモンドが輝いている。
仕事柄、よく目にするものだが、それが自身の指にはめられている現状がにわかに信じ難くて、呆然としてしまう。

「いいか。これはしばらく外さないでいて欲しい」

首を傾げる私に、拓斗は説明を続ける。呆けてしまった私とは対照的に、彼はずいぶんと真剣な顔をしている。

「桐嶋朔也の虚言に対する自己防衛、とでも捉えていて」

つまり、自身に婚約者がいるにも関わらず、他の男性に付きまとうなどあり得ないと示すためのものだろうか。

朔也にしてみれば、時期的に考えて私の方こそ二股をかけていたのではと思われかねないが、そこを考えても仕方がない。それは向こうも同じなのだから。
どうせずいぶん拗れてしまった仲ならば、気にしてもしょうがない。

「わかりました」

了承する私に、彼はどこかほっとしたように見えた。

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