過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
そのまま私の隣に座った拓斗は、一枚の用紙を取り出した。

「婚姻届?」
「そう。今はネットでダウンロードができるんだよ。ほらこれ、女性の好きそうなデザインだろ?」

差し出された用紙はよく見る堅苦しいデザインではなくて、全体的な明るい色づかいで、隅にはかわいらしい小花がプリントされている。

「かわいいですね」

感想を零すと、拓斗が笑みを返してくれた。

「事務連絡のようになって申し訳ない。まずはこれを記入してもらう」

それよりも先に、互いの両親に会って許しをもらうとかするべきではないだろうか? 彼は大丈夫だと話していたものの、神山家側が私を簡単に受け入れてくれるのか、かなり不安だ。
おまけに私は今現在、不名誉な疑いがかけられている身なのだから。

「あの、ご両親の許可は?」
「ああ。すでに話は通してある。早めに会わせるように催促されたぐらいで、反対する気はさらさらないよ」

婚姻届も然り。あまりの用意周到さに、思わず絶句してしまう。拓斗は一体いつからこれらを用意していたのだろうか?
彼の家は、うちのような一般家庭とは違うはず。それにもかかわらず、顔合わせどころか話しすらしていない相手を、そう簡単に受け入れるものだろうか?

「それって、本当に大丈夫ですか?」
「問題ない。むしろ、最大の懸念事項は美香のご両親の方だ。受け入れてもらえるよう、全力を尽くさないと」

信じられない。彼はなんとも見当違いな心配をしている。
こんな素敵な人を連れていって反対する親など、果たしているだろうか? うちの両親なら手放しで喜びそうだ。

「頻繁に結婚を催促してくるような母ですよ。相手を連れていくだけでも舞い上がりそうなのに、拓斗のような立派な人を前にしたら大騒ぎしそうです」

間違いなく認めてくれるだろう。むしろ〝逃すな〟くらい言いそうだ。
あえて心配するとしたら、その立派な家柄に私が見合うかどうかぐらいのもの。

「そうか。それは安心だが、信用してもらえるように尽くすよ」

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