過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
三室ある部屋のうち、ふた部屋は拓斗の書斎と寝室だという。彼は使われていなかったひと部屋を私専用にしてくれた。
ただし……。

『寝室は一緒にするから』

衝撃的なひと言に、思わず固まっていた。
そんな私に、彼はさらに続けた。

『条件や前提を付けた結婚とはいえ、美香は俺の妻だ。さらなる信頼関係をこれから築いていきたい。そのためにも、俺は美香と普通の夫婦と同じように過ごしたい』

彼がふたりの関係を真剣にそう考えているのだと、しっかりと伝わってきた。だとしたら、私も彼と向き合っていくべきだ。そう思ってはいるけれど……。

『普通の夫婦と同じように過ごしたい』とは、どこまでを指しているのか。恋愛感情は伴わなくとも、友情や戦友のような感覚で夫婦関係を築いていくのとは違うのだろうか?
ひとり思案しているうちに、『夫婦なんだから当然だろ』と言い切られてしまう。

〝当然〟という言葉の中に、夜の営みも含まれるのか。困惑と気恥ずかしさから、その場で聞き返せなかった。
途端に落ち着かなくなる中、拓斗はさらに追い打ちをかけてきた。

『夫婦円満な姿を見せないと、ご両親が心配する。美香は演技なんてできなさそうだし、普段から俺に慣れてもらわないと』

そこまで言われたら、強く反論できなかった。

肝心なところは曖昧なまま、彼と寝室を共にすると決まってしまった。すでに一度肌を重ねてしまったとはいえ、すごく緊張する。

一緒に寝るだけ、よね?

ここへ来た最初の夜。そろそろ寝ようかと恐る恐るベッドに横たわると、拓斗は『おやすみ』と額に口づけて、私を抱きしめながら眠りについた。なんだか拍子抜けしてしまった。

帰国したばかりで疲れていたし、決して何かを期待していたわけではない。でも、なんだか自分だけが意識していたようで恥ずかしい。
とはいえこの状態でくつろげるはずもなく、なんとか眠りについたのはずいぶん時間が経ってからだった。

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