過保護な御曹司の溺愛包囲網～かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです～
二十時半を過ぎた頃に帰宅した拓斗は、開口一番に強い口調で言い放った。

「フェリーチェは、もはや美香が関わる価値はない」

彼にしては珍しく厳しい表情を見せているのは、強く出られない私に代わって怒ってくれているのだとわかっている。

フェリーチェの対応は、帰国前に連絡を受けて以降私はノータッチだ。全て拓斗が対応してくれている。
正直、他人任せにしてしまうのは社会人としてどうかと思う。でも、拓斗がここだけは譲らないと、私にいっさい関わらせないようにしたのだ。

事前に、野々原美香を引き抜くと拓斗が伝えていた。しかし、彼があえて身分を明確にしないまま接触したのもあって、園田は今夜、拓斗に私への不満をいろいろと話して聞かせたようだ。
その姿勢は会社を背負うものとしてどうかと思うけど、残念ながら今のあの会社のトップはそういう人だということだ。もしかしたら拓斗は、そんな人間を引き抜くつもりかとぐらいは言われたのかもしれない。

未だに怒りの収まらない拓斗には、お世話になった上司とのみ個人的にコンタクトを取るのはかまわないが、それ以外のフェリーチェの人間に接触しないようにと念を押された。それから、朔也や三崎グループの人間にも絶対に関わらないようにとも。

私との関係を偽って嘘を広めるほど、ある意味追い詰められている朔也を刺激しない方がよいだろうと私もわかっているから、拓斗の言葉に従った。
時が経てば和解につながるのか、それともこのまま疎遠になっていくのかはわからないが、今はそれでよいのだろうと思う。

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