過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
食事を済ませると、拓斗は私をリビングへ促した。
時間の経過とともに、彼も落ち着きを取り戻している。さっきの彼は、我を忘れそうになるほど怒ってくれていたのだと思うと、嬉しくなってくる。その拓斗の気持ちに、沈みがちな気分も浮上してくるようだ。

ソファーに隣り合って座ると、拓斗は私の表情を確かめるようにしながら話し始めた。

「フェリーチェ側と話しをつけてきた」

あらためて、どういうやりとりをしてきたのかを説明してくれるようだ。

「やはり向こうは、一方的に美香を責める気だったようだ」

何をどう弁明しても無駄だと思ったのは、間違いでなかった。
悔しさや無念さにズキズキと痛み出した胸を思わず押さえると、慰めるようにそっと肩を抱き寄せてくれる。拓斗の体温が、私はひとりではないと感じさせてくれているようで、なんだかほっとする。

「あまりこういうやり方は好きじゃないが、美香を引き抜くためにも現状を知りたくて、こちらの情報を与えないまま向こうの話を全て聞いた。まあ、気持ちの良いものではないから、詳しくは言わないが」

驚いたことに、園田はアローズグループの副社長を知らなかったようだ。というより、まさかそんな人が自分を訪ねてくるとは思ってもいなかったのだろう。
元より、彼女は違う畑の人間だと聞いている。知らなくて当然なのかもしれない。

園田は、私の能力をけなしはしなかったらしい。見込みがないのなら、久々莉が目をかけるわけがないし、海外への研修など行かせなかったと。そこを認めてもらえたのは、私としても素直に嬉しい。

ただ、もしかしたら大金をかけて研修に行かせたのに大損だったぐらいはこぼしたのかもしれない。パリにいた頃に応じた電話では、そんな雰囲気をひしひしと感じていた。そこは私に非はないのだから、悔んだり申し訳なく思ったりするのはよそうと思う。

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