過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
帰国して一カ月ほどが過ぎた。この間ゆっくり過ごさせてもらったおかげで、ずいぶんと気持ちも落ち着いている。逆に若干、時間を持て余し気味だ。

たまに、フェリーチェや朔也のことを考えてしまう瞬間はあるものの、『美香自身が着たいと思うウエディングドレスをデザインしてみて』と、拓斗から出された課題に取り組むうちに、少しずつ思い出す時間は減ってきた。
もしかしたら拓斗は、私にいろいろと忘れさせるために意図的に課題をくれたのかもしれない。

「美香、明日は一日休めるから、ちょっと付き合ってよ」

帰宅早々に声をかけてきた拓斗を見れば、なんだか楽しそうな表情をしている。
帰国してそのまま休みを取っていたために仕事が溜まっていたのと、時期的にも忙しいのもあって、ここのところ拓斗が丸一日休みをとれた日はなかった。貴重な休日ぐらいゆっくりして欲しいと思うけど、このどこか嬉しそうな表情を見たら断る選択肢はなくなった。

翌日、なんの説明もされないまま連れていかれたのは、ジュエリーショップだった。
明らかに高級とわかる外観に、思わず足が止まってしまう。戸惑った顔のまま隣に立つ彼を見上げれば、優しい笑みが返ってきた。

「結婚指輪を用意したい。美香にはめてやりたいし、俺も美香の夫になったと実感したい。」
「夫……」

事実、拓斗はすでに私の夫だ。『普通の夫婦と同じように過ごしたい』と言っていたのも、彼の本心なのだろう。

「本来、結婚指輪はお互いに贈るものだろうが、美香が求婚に応えてくれたお返しに俺が贈りたいんだ」
「こんなによくしてもらっているのにお返しだなんて」

結婚してもらえたと言うべきなのは、私の方だ。彼の存在がなかったら、今の私はなかった。それが拓斗に守られて、こうしてずいぶんと自由に過ごさせてもらっている。こちらが拓斗に返す立場だ。

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