過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
ただ、このお店の商品はどう考えても折半するとは簡単に言えなさそうだ。

ウエディングドレスのデザイナーと聞けば、華やかな職業のように思えるかもしれない。でも実態は、残業が多いわりに給料がとびぬけてよいわけでもない。有名デザイナーとなれば別だが、私のような立場のそれは知れている。無駄遣いはしない方だからこれまで貯めた貯金があるとはいえ、指輪の金額に比べたら些細なものだし、何より今の私は無職だ。

拓斗はそんな私の懐事情に配慮してそう提案してきたのかもしれない、などと私が考えていたのは見破られていたようだ。

「大丈夫。その分美香には違う形で返してもらうから」

仕事で、という意味だろうか?
まだ全容の明らかになっていない仕事に、どれほど私が役に立てるのかはわからない。だから、このまま甘えてしまうのは抵抗がある。しかも、拓斗からはすでに豪華な婚約指輪をもらっている。
迷っている私に、彼はさらに頷かざるを得ないように仕向けてくる。

「これも武装のひとつだ。お互いに指輪もしてないとなれば、本当に結婚しているのかと疑われかねないし、俺の面目も立たない。両親にもなんて言われるやら。美香、俺のためにプレゼントさせてくれないか」


優しくも、狡い言い方だ。彼のプライドを傷つけかねないとなれば、受け取らざるを得ない。
それに当然と言えばその通りだが、チラリと見た拓斗の左手には何もはめられていない。つまり、知らない人から見れたら彼はまだ独身に思われかねない状況だ。

なんか、嫌だ。
瞬時に湧き出たどこか黒い感情に、慌てて心中で否定した。

反論すべきではない。早々に降参して、拓斗に手を引かれるまま煌びやかな店内に足を踏み入れた。


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