滲み出る虹
空にかかる虹
ジリリリリリ…

普段と何らかわりない目覚まし時計の音。窓からはすでに高く昇った日差しが差し込んでいた。

男は目をこすりながら時計を黙らせる。そこからが早かった。みるみる内に着替えをすませた。顔を洗い、身仕度を終えるまでほんの五分程度だった。


7月30日、涼という名の少年は散歩に出かける。これが涼が目覚めてから行う日課だった。夏休みの真っ最中なので涼はお昼になって起きる。誰も咎める者はいない。


「こんにちは」
涼は道行く人に挨拶をした。どこにでもいる少年ではあったが、近所では好青年だと評判だった。高校二年になる涼は何の不自由なく育った。いわゆる裕福、幸せというやつだ。学校では友達も多かったし、人気もあった。

海外旅行にも行ったことがあった。フランス料理だって食べたことがあった。同じ年頃の子達の中でも色々な経験のある少年だった。いや、ほとんどのことを経験したことがあった。


たった一つのことを除いて…


そう、恋というものを除いて…
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