滲み出る虹
ジリリリリリ…


窓の外はすでに明るくなってからかなりの時間が過ぎていた。ベッドから落ちたタオルケットを拾いながら涼は時計を黙らせる。

8月2日、涼はあいかわらず迅速な動きで身仕度を終えたのだった。


今日も涼は散歩に出かけた。セミがいつもみたくやかましくて、暑かった。


「今日はどうしようか」
少しだけ気分が乗らない。少しだけあの丘に行くのがこわかった。もう奈々には会えないんじゃないかとさえ思ったりもした。


しかし、他に行くあてもないのでやっぱり涼はあの丘へ行くことにした。期待をしていないと言えば嘘だと言われるだろう。涼は奈々に会いたかった。


丘に着くとあいかわらず人気はなかった。人気がない故の寂しさをほんのちょっとだけ感じた。

この日は眠たくもなかった。本を開いてみたもののあまりに文字が頭に入ってこなかったのですぐに本を閉じた。ベンチに腰をかけてからただただ時間が過ぎるのを待つ。何をするわけでもなく、ただただ時間が過ぎるのを待った。
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