滲み出る虹
目が覚めるとそこは真っ赤な世界だった。赤すぎて一瞬闇なんじゃないかと思うくらい赤かった。胸がキリキリとした。


目をこすりながら辺りを見渡すとそこにはもう幾分か見慣れた少女が立っていた。


「…こんにちは」
涼は声を振り絞った。声が口から出てくるまでに少し時間がかかった。

「こんにちは」
いくらか聞き慣れた声がそこにはあった。


「……奈々…よな…」
ほんとに声が出にくい。会えて嬉しいはずなのに、会うためにわざわざ来ているのに、どこかで迷っていた。


これではいけないと思った。楽しい話をしよう、そうだ今日買ったCDの話でもしよう。そしてもし興味をもってくれたら貸してあげよう。自分もまだ聞き込んでないけれど迷わず貸してあげよう。その後、話をしよう。僕のことをもっと知ってもらおう。彼女のことをもっともっと教えてもらおう。もっと、もっと…


そんなことを思いながら涼は口を開いた。手のひらをギュッと握り締めながら口を開いた。
「あの…」


涼が切り出そうとしたその時だった。



「もう奈々には会わないで下さい」
目の前の少女は一言そう言った。

夕日は世界の終わりのようだった。
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