滲み出る虹
目が覚めるとそこには真っ赤な世界が広がっていた。すべての人間から流れ出る血のようだった。ここは地獄なんだと思った。少し綺麗だと思った。夕焼けだった。


涼は難しい本とあまりに気持ちの良い環境のせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。起きたのは夕方。眩しかった。


本を閉じて腰を上げようとした時、夕焼けの中に人影を見つけた。あまりに綺麗だった。少女だった。外見で言えばおそらく涼と同じ年頃であろう少女。整った顔立ちにさらりと長い髪。人気のない丘にあるそれはまるで映画かなにかのワンシーンのようだった。


「あの…君は誰?」
涼は知らず知らずの内に声を発していた。


少女は言う。
「私は奈々です、毎日この時間にはこの丘に来るんです。夕焼けがとても好きなんです。でも、明日は来れるかわかりません…」


「僕は涼。涼しいっていう字で涼。今日はたまたま来たんだけどね。邪魔しちゃったかな?」
涼は少女を前にして何故か照れた様子だった。顔は真っ赤だった。それこそ夕日でわからなかったが。


「いいえ、邪魔とかじゃ…ないです。その…」
奈々も顔を真っ赤にしていあ。もちろん夕日でそれはわからなかったが。


「ま、ここで会ったのも何かの縁だね。よろしく!」
ハキハキと話す涼に対して、奈々はどこか儚げに言った。
「…よろしく」


二人はこの後、少しだけ話をした。と言っても涼が話したのを奈々が聞いてるだけだったのだが。涼はその時間をとても楽しいと思った。奈々も同じく楽しいと思った。
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