呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「すぐお付けになりますか?」
「ううん。自分で付けられるから大丈夫よ」
「かしこまりました。では朝食の準備をして参りますので時間になったら降りてきてください」
 イヴは扉の前で一礼するとティーカップを乗せた銀盆を手にして部屋から出て行った。
 一人になったエオノラはテーブルの上にある宝石箱の蓋の上に柘榴石のペンダントを置いてみることにした。

 心臓がドクドクと脈打ち、緊張が走る。
 これで駄目だったらまた振り出しに戻ることになる。不安と期待が入り交じる中、固唾を飲んで見守っているとカチリ、と箱の中から音がした。
 その途端、興奮して全身に鳥肌が立つのを感じた。
「ひ、開いたわ!!」
 息を弾ませながら震える手で蓋を開け、中に入っていたものを取り出した。
 それは一冊の小さな帳面だった。パラパラと頁を捲りながらエオノラは中身を確認する。
「……手帖? いいえ、これはお祖母様の日記帳だわ」
 頁の上には日付が書かれていて、最初の方には彼女が初めて社交界デビューした日のことが書かれている。初めて舞踏会で踊った相手やどんな気持ちだったかが赤裸々に語られていて、そこには若かりし祖母の姿があった。

 祖母が必要になるかもしれないと手紙に書いていたのは、社交界の心得をエオノラに伝えるためだったのかもしれない。
 祖母のアドバイスは絶対に役に立つ。この日記帳は、社交界で置かれているエオノラの悪い状況を助けてくれる救世主になるかもしれない。
「ありがとうございます、お祖母様」
 エオノラは亡き祖母を思い浮かべて日記帳を抱き締める。
「……そろそろ朝食を食べに行かないといけないわ。それに雨も降りそうだから早く死神屋敷へ行かないと。日記帳は気になるけど、帰ってからじっくり読むことにしましょう。ええっと施錠の仕方は確か……」
 魔術師に関する資料によると蓋の上に再度鍵となる品を置くと施錠ができると書いてあった。日記帳を箱に戻して柘榴石のペンダントを蓋の上に置いてみると、先程と同様にカチリという音が鳴る。試しに蓋を開けようとしたが、ビクともしなかった。
 エオノラは柘榴石のペンダントを自分の首に付けると、食堂へと向かったのだった。

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