呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 一部の貴族たちの間では結婚式よりも尊ばれていて、家同士が慎重に何度も話し合ってから執り行う。要するにただの気まぐれや思いつきで容易に行えるものではないのだ。
 呆気に取られつつも、エオノラは震える唇からなんとか言葉を絞り出した。
「……おめでとう。だけどそんなに早く婚約式だなんて。キッフェン伯爵と叔父様は同意してくれたの?」
「お父様は快諾してくださったわ」
「キッフェン伯爵はどうなの?」
「伯爵はお仕事で王都にいらっしゃらないの。だけど伯爵代理のリックが快諾してくれたから問題ないわよ」
「……っ」
 エオノラは話を聞いて気が遠くなるのを感じ、こめかみに手を当てる。

(そういえば、リックは私が悪い女で、アリアという真の愛を見つけたと夜会で言いふらしていたってシュリアが言っていたわね。世間の同情を買っているからこそ、すぐに婚約したって問題ない……ううん、もしかすると婚約式を決行するために行動していたのよ)
 どうして自分の悪い噂をリックが流していたのかこれで合点がいく。彼はアリアと婚約式を堂々と執り行うために先手を打ったのだ。
 そして最後の最後まで貶められていることに気がつく。

(……私が何をしたというの。どうしてここまでされないといけないの?)
 黒い感情は出し切ったはずなのに、また胸の奥であぶくのように吹き出し、胸が締め付けられる。それでもアリアの気持ちを考えてエオノラは笑みを作った。

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